アドルフォ・ビオイ=カサーレス『モレルの発明』

 ボルヘスとの共作で知られる作家の1940年発表作。

 犯罪によって無人島に逃れた男の前に現れる謎の美女とその顛末。二つの太陽、二つの月、潮が満ち水没する島、丘の上の博物館、モレルの作り上げた機械。
 
 読みながら、デフォー『ロビンソン・クルーソー』(無人島での独我論的世界)、サルトル『嘔吐』(孤独な男による手記)、ファウルズ『コレクター』(美女への一方的な思慕)、カフカ『城』(自己を超越した理解不能なシステム)といった作品を想起。クエイ兄弟による映画化『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』があるらしいが未見である。
 
 「モレルの発明」=「ホログラム」なのだが、「ホログラムもの」はアニメなどを通じて経験的に知っている(大友克洋『メモリーズ』など)ので、主人公の前に現れる人物がホログラムであることも途中で予測できてしまう。発表当時だとこの舞台装置は意外だったのだろうか?
 
 自らを撮影し、オーヴァーダビングしてホログラムの中にその像を閉じこめて男は死ぬ。女と永遠に一体化するために。
 
 一人称の独白は必然的に「信用できない語り手」問題を内在するけれど、この作品も結局主人公の男の書いていることが、どこまで本当かはわからない。確かなのは女への愛だけ。
 
 「だがもしかしたら、われわれは愛する人が幽霊として存在することを、いつもこころのうちで願っていたのではないだろうか?」
 
 
 
 
  いつも思うけど日記体小説って、先に進むにつれどんどん日記っぽくなくなるね。こんな日記を書く奴はいない。
 
モレルの発明 (フィクションの楽しみ)

モレルの発明 (フィクションの楽しみ)